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福岡地方裁判所 昭和58年(わ)222号 判決

本店の所在地

福岡市博多区博多駅前三丁目五番七号

法人の名称

株式会社 日本資格審査連盟

代表者の氏名

播野定雄

本店の所在地

福岡市博多区博多駅前三丁目五番七号

法人の名称

株式会社 日本経法学院

代表者の氏名

村中孝博

本籍

福岡市中央区小笹三丁目二〇番

住居

同市同区小笹三丁目二〇番二五号

小笹ライオンズマンション三〇一号

会社役員

山崎繁光

昭和九年五月二三日生

右株式会社日本資格審査連盟及び株式会社日本経法学院に対する各法人税法違反被告事件並びに右山崎繁光に対する法人税法違反、所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官岩崎保俊出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人山崎繁光を懲役一年六月及び罰金二億五〇〇〇万円に処する。

被告人山崎繁光が右の罰金を完納することのできないときは金二五万円を一日に換算した期間(但し、端数は一日に換算する。)同被告人を労役場に留置する。

二  被告人株式会社日本資格審査連盟を罰金三〇〇〇万円に処する。

三  被告人株式会社日本経法学院を罰金一五〇〇万円に処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社日本資格審査連盟は、福岡市博多区博多駅前三丁目五番七号に本店を置き、各企業の教育指導等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社、被告人株式会社日本経法学院は、同市同区博多駅前三丁目五番七号に本店を置き、国家資格準備講習等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であって、被告人山崎繁光は右両被告人会社の経営担当者としてその業務全般を統括し、かつ個人として東京都内、大阪府内等において、他人名義を借用し、「総合企業管理協会」、「日本資格審査連盟」等の屋号を用いて研修及び民間資格認定業を営んでいたものであるが、

第一  被告人山崎において、前記株式会社日本資格審査連盟の業務に関し、法人税を免れようと企て、登録料及び年会費収入等の一部を除外し、また旅費交通費、通信費、教材費等の経費を架空に計上して簿外預金を蓄積する等の方法により所得を秘匿したうえ、

一  昭和五四年三月一日から同五五年二月二九日までの事業年度における右被告人会社の実際所得金額が一億八三五六万九五三一円あったにもかかわらず、同五五年四月三〇日、同市東区馬出一丁目八番一号所在の所轄博多税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における欠損金額が九八万三四一六円でこれに対する法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額七二五四万一二〇〇円を免れ、

二  昭和五五年三月一日から同五六年二月二八日までの事業年度における右被告人会社の実際所得金額が一億一六八七万五〇四九円あったにもかかわらず、同五六年五月一日、前記博多税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における欠損金額が五一八万九〇九二円でこれに対する法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額四五七八万三五〇〇円を免れ、

第二  被告人山崎において、前記株式会社日本経法学院の業務に関し、法人税を免れようと企て、テキストの売上を除外し、また旅費交通費、通信費、教材費等の経費を架空に計上して簿外預金を蓄積する等の方法により所得を秘匿したうえ、

一  昭和五四年三月一五日から同五五年二月二九日までの事業年度における右被告人会社の実際所得金額が九四八五万九六五五円あったにもかかわらず、同五五年四月三〇日、福岡市東区馬出一丁目八番一号所在の所轄博多税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四二八万〇四五五円でこれに対する法人税額が一一四万三九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三七〇四万九一〇〇円と右申告税額との差額三五九〇万五二〇〇円を免れ、

二  昭和五五年三月一日から同五六年二月二八日までの事業年度における右被告人会社の実際所得金額が五四九五万二七七九円あったにもかかわらず、同五六年五月一日、前記博多税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における欠損金額が三〇三五万七八四六円でこれに対する法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出するとともに、前記一の事業年度における法人税額相当額一三三万四一九一円の還付を請求する旨記載した欠損金の繰戻しによる還付請求書を提出し、もって不正の行為により、同五五年三月一日から同五六年二月二八日までの事業年度における正規の法人税額二一〇六万四二〇〇円を免れ、かつ同五六年七月三一日、右博多税務署長より還付金一三三万四一九一円の還付を受け、

第三  被告人山崎は、自己の所得税を免れようと企て、各事業所の責任者等の他人名義で確定申告書を提出して所得を分散し、かつ他人名義の申告に際しても、登録料、年会費、テキスト売上等の収入の一部を除外し、あるいは研修指導料、通信費等の経費を架空に計上して簿外預金を蓄積する等の方法により所得を秘匿したうえ、

一  昭和五四年分の実際所得金額が五億七一七一万一四九九円あったにもかかわらず、所轄税務署長へ所得税確定申告書をその提出期限内に提出せず、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額四億一四二八万八二〇〇円を免れ、

二  昭和五五年分の実際所得金額が五億〇七九三万四一五四円あったにもかかわらず、所轄税務署長へ所得税確定申告書をその提出期限内に提出せず、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額三億六六二四万〇七〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実について

一  被告人山崎の当公判廷における供述

一  被告人山崎の検察官に対する供述調書八通(検三〇五ないし三一〇、三一五、三一六号)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書五通(検一二四、一二五、一三一、一三八、一四六号)

一  熊谷栄二の検察官に対する供述調書六通(検一六二ないし一六七号)

判示第一の各事実について

一  被告人山崎の検察官に対する供述調書二通(検三一一、三一二号)

一  山本つほみ(五通、検一六八、一七一、一七三ないし一七五号)及び美張淳子(検一八四号)の検察官に対する各供述調書

一  押収してある昭和五四年度元帳(B)一綴(昭和五八年押第二七五号の四)、昭和五五年度元帳(B)一綴(同号の五)、メモ帳(表紙にはモメ帳と記載されたもの)一冊(同号の六)、ノート一冊(同号の七)及び預金入金控帳一冊(同号の八)

一  福岡法務局登記官作成の登記簿謄本(検二号)

一  押収してある設立登記関係書類三綴(昭和五八年押第二七五号の一)

判示第一の一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検六号)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料(検七号)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書八通(検一〇、一二、一三、一五ないし一九号)

一  押収してある確定申告書一綴(昭和五八年押第二七五号の二)

判示第一の二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検八号)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料(検九号)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書七通(検一一、一四ないし一八、二〇号)

一  押収してある確定申告書一綴(昭和五八年押第二七五号の三)

判示第二の各事実について

一  被告人山崎の検察官に対する供述調書(検三一三号)

一  水野光會(五通、検一七八ないし一八二号)、対馬久子(検一九二号)、山本つほみ(検一七七号)及び石原晴夫(検一九三号)の検察官に対する各供述調書

一  押収してあるノート(テキスト代入金表)一冊(昭和五八年押第二七五号の一四)、ノート(入金明細帳)一冊(同号の一五)、ノート(入金明細書)一冊(同号の一六)、ノート(テキスト代)一冊(同号の一七)、預金入金控帳一冊(同号の八)、ノート一冊(同号の一八)、山口銀行出納帳一綴(同号の一九)及び山口銀行出納帳(表紙付き)一綴(同号の二〇)

一  福岡法務局登記官作成の登記簿謄本(検二七号)

一  押収してある定款一綴(昭和五八年押第二七五号の九)

判示第二の一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書二通(検三一、三三号)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料二綴(検三二、三四号)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書五通(検四一ないし四五号)

一  押収してある確定申告書一綴(昭和五八年押第二七五号の一〇)

判示第二の二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書四通(検三五、三六、三八、三九号)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料二綴(検三七、四〇号)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書四通(検四一、四二、四四、四五号)

一  佐敷秀志の検察官に対する供述調書二通(検一八八、一八九号)

一  博多税務署副署長作成の証明書(検四八号)

一  株式会社広島銀行福岡支店支店次長外一名作成の証明書(検四九号)

一  押収してある確定申告書一綴(昭和五八年押第二七五号の一一)、還付請求書一枚(同号の一二)及び法人税決算書一綴(同号の一三)

判示第三の各事実について

一  被告人山崎の検察官に対する供述調書(検三一四号)

一  山本つほみ(四通、検一六九、一七〇、一七二、一七六号)、美張淳子(三通、検一八五ないし一八七号)、福澤善博(検一九一号)及び石原晴美(検一九三号)の検察官に対する各供述調書

一  西福岡税務署長、福岡税務署長、博多税務署長各作成の「申告状況の回答について」と題する書面三通(検五九ないし六一号)

一  橋口幸一作成の「個人事業所別の所得税申告状況について」と題する書面(検六二号)

一  押収してある経理ノート二冊(昭和五八年押第二七五号の二一、二二)、ノート二冊(同号の二三、二四)、メモ帳(表紙にはモメ帳と記載されたもの)一冊(同号の六)、昭和五四年度元帳(B)一冊(同号の四)、昭和五五年度元帳(B)一冊(同号の五)、ノート(テキスト代入金表)一冊(同号の一四)、重要書類綴一綴(同号の二五)、現金明細帳一綴(同号の二六)及び預金メモ(ファイル付き)一綴(同号の二七)

判示第三の一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書二通(検六三、六五号)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料二綴(検六四、六六号)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書四九通(検七一ないし八七、一〇二ないし一〇六、一〇九、一一二、一一四、一一六ないし一一九、一二一ないし一二三、一二六ないし一三〇、一三二、一三四ないし一三六、一三九ないし一四二、一四四、一四五、一四八、一五〇号)

一  永野光會の検察官に対する供述調書(検一八三号)

判示第三の二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書二通(検六七、六九号)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料二綴(検六八、七〇号)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書五〇通(検八四、八七ないし一〇五、一〇七、一〇八、一一〇ないし一一五、一二〇ないし一二三、一二六ないし一二九、一三二ないし一三五、一三七、一三九ないし一四五、一四七、一四九号)

一  佐敷秀志の検察官に対する供述調書(検一九〇号)

(法令の適用)

罰条

被告人山崎につき(同被告人の判示各所為に対する罰則については、いずれも、昭和五六年五月二七日施行の同年法律第第五四号〔脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律〕により、法定刑が引き上げられているが、判示第二の二の場合を除いてはいずれも犯罪後の法律により刑の変更があったときにあたるから、判示第二の二を除く各罪については、刑法六条、一〇条により、軽い右法律第五四号による改正前の、行為時法の刑によることとする。)

判示第一の一、二及び第二の一の各所為は、いずれも、昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一、二項に各該当

判示第二の二の所為は包括して右改正後の法人税法一五九条一、二項に該当

判示第三の一、二の各所為は、いずれも、右法律第五四号による改正前の所得税法二三八条一、二項に各該当(以上判示各罪の各所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を選択)

被告人株式会社日本資格審査連盟につき

判示第一の一、二の各所為の関係で、いずれも昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条一、二項に各該当

被告人株式会社日本経法学院につき

判示第二の一の所為の関係で、昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条一、二項に該当

判示第二の二の所為の関係で、包括して右改正後の法人税法一六四条一項、一五九条一、二項に該当

併合罪の処理

被告人山崎の判示第一の一、二、第二の一、二及び第三の一、二の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第二の二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪所定の罰金額を合算する。

被告人株式会社日本資格審査連盟については判示第一の一、二の各罪が、また、被告人株式会社日本経法学院については判示第二の一、二の各罪が、それぞれ刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により、各被告人ごとに判示各罪所定の罰金額を合算する。

労役場留置(被告人山崎につき)

刑法一八条

(被告人山崎に対する量刑の理由)

被告人山崎の本件犯行は、判示のとおりであるが、判示第一、第二の両法人分については極端な過少申告であり、判示第三の個人分については無申告であって(他人名義で申告をしているが、これらについてみても、実際所得金額に対する申告所得金額の割合は低い。)、その逋脱税額は合計一〇億円近くに昇る多額であること、脱税の手段態様は、被告人山崎を頂点とする組織ぐるみの継続的な「売上除外」及び「架空経費の計上」であって、その規模が大きいこと、犯行の動機についても格別同情すべきものではないこと、などを併せ考えると、本件は、申告納税制度のもとにおける大胆かつ悪質な脱税事犯というべきである。

加えて、被告人山崎は、昭和四〇年から同四六年にかけて、窃盗、詐欺等の罪により計三回懲役刑に処せられたが、いずれも執行猶予付(そのうち二回は保護観察付)の温情判決を受けており、その最後の執行猶予の期間が経過したのは昭和五一年四月のことであって、このことは、今回更に執行猶予を付するか否かの判断にあたって無視できない事情である。

そうすると、他方において、被告人山崎が、本件発覚後は、本件を反省改悛し、本件の調査及び捜査に協力的態度をとったこと、法人分、個人分いずれについても査察の結果に従って修正申告をし、本税はすでに納入し、未納の加算税等についても納入すべく努力中であること、現在では、自己の関係する事業の経理を改善し、再犯防止の方策を講じたことなど、被告人山崎に有利な情状のあることを斟酌しても、同被告人の今回の犯行に対しては、主文のとおり、懲役刑についても実刑をもってのぞむべきものと考える。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 濱崎裕)

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